特定非営利活動法人

動物介在教育・療法学会

Asian Society for Animal-assisted Education and Therapy

ASAET

犬種別表情分析から考える「可愛さ」の検討
-The Dog Facial Action Coding Systemを用いて-

小山 薫・野瀬 出・柿沼 美紀 日本獣医生命科学大学


【緒言】

Waller et al. (2013)はThe Dog Facial Action Coding System(DogFACS)を用いてシェルターの犬の表情を分析し、内側眼角挙筋を収縮し、眉頭をあげる表情(AU101、図1)を示す犬がより新しい家族が見つかりやすいことを報告した。

これは、人間による淘汰圧の結果強化された表情であり、眉頭をあげる表情(AU101)により人がその犬を保護し、可愛がりたいと思うためだと考えられている。本研究では、犬種別の愛犬雑誌の販売や、CM起用数の差から人が犬に対し「可愛い」と思う表情に差があると仮定した。それを明らかにするために、日本で「可愛い」と言われる犬の表情に着目し、どの表情筋が関与しているか分析し、「可愛さ」の認知の仕組みについて検討した。

【方法】

日本で飼育頭数の上位であるトイプードルと柴(アニコム人気犬種ランキング2021)、CM出演数の多いゴールデンレトリバーの写真を各100枚分析した。検索エンジン、グーグルを用いて「◯◯◯(犬種)、可愛い」で画像検索をし、正面を向いている顔の写真を利用した。分析はDogFACSを使用し、coder有資格者が行った。DogFACSが筋肉の動きを説明するシステムのため、ここでは目を閉じる(AU143)、瞬きをする(AU145)、匂いを嗅ぐ(AU40)、耳の動き(EAD101-EAD105)と言った、動きに着目した項目を除外した。

【結果・考察】

今回確認した21項目の確認数を3犬種で比較したところ、トイプードルは少なく、ゴールデンレトリバーに多かった(χ2(2)=95.263, p <.01)。AU101に関しては柴(1/100頭)、トイプードル(0/100頭)、ゴールデンレトリバー(7/100頭)であり、。口や舌関係の項目に比べると発生頻度は低かった。口角を上げる(AU12) は、トイプードルが少なく、ゴールデンレトリバーに多かった(χ2(1)=9.704 , p <.01)。 舌を見せる(AD19、図2)も同様であった(χ2(2)=35.977, p<.01)。体に対する顔の向き(AD51~AD54)の合計では、柴は正面以外を見ず、ゴールデンレトリバーはいろいろな方向を向いていた(χ2(2)=17.235, p<.01)。

以上の結果から、犬種によって、人が可愛いと感じる基準が異なることが示唆された。ゴールデンレトリバーでは、眉頭の動き(AU101)、口角を上げる(AU12)、舌を見せる(AD19)といった表情が、特に人に「可愛い」と思わせ、トイプードルはDogFACSで分類されている表情筋の動きには関係なく「可愛い」と思われることが分かった。柴はトイプードルに比べると口や舌を使った表情が観察されている。

ゴールデンレトリバーが、人気飼育頭数の上位ではないが、CMに起用頻度が高い理由は今回の調査では明らかにできなかった。ただ、正面だけでなくいろいろな方向で多様な表情をする、またAU101の表情が見られやすいことが関係している可能性は考えられる。


図1.眉頭を挙げる表情(AU101) 出典:pixabay


図2. 口角を上げる(AU12)、舌を見せる(AD19)出典:pixabay